1.はじめに(開発経緯)
近年の社会活動の場では様々な床材が使用され,使用環境によっては転倒事故による死傷の恐れがあり,安全性の向上が大きな課題となっている。この課題に応えるために開発したのが,この「スキ ッドレスシリーズ」である。
開発のスタートはタイル・石材専用の滑り止め処理剤「スキッドレス」で,既に全国で5,000 件以上の施工実績がある。しかし,近年はタイル・石材以外の床にも対応できないかとのニーズも多く,あらゆる床材に適応する新たな工法が求められた。長年の研究開発の結果,木床・金属床・化学系床・塗床・コンクリート床などあらゆる床材をコーティングによって滑りにくくする防滑工法(スキッドレスコート)を実用化した。これらの工法をシリーズ化することにより,あらゆる床材に最適な滑り防止工法の選択が可能となった。
本工法はあらゆる床の滑りによる転倒事故を未然に防止するもので,社会活動の基本となる床の安全性や快適性の向上に資することを目的としている。
2.転倒事故の現状
表-1に示すように,近年は不慮の事故のうち転倒・転落による死亡者数が交通事故による死亡者数を上回ってきている。また,転倒・転落事故の死亡者数の約6割(3千人~4千人)がスリップ,つまづきなど同一平面上での転倒事故による死亡となっている。交通事故に対しては,さまざまな対策が行われているのに比べ,転倒事故に関してはその実態も十分には把握されておらず,抜本的な対策がほとんどなされていないのが現状である。
3.新技術の概要
3.1 従来技術の問題点
タイル床・石材床以外では効果的な防滑処理方法が無く,一般的に写真-1に示すように滑り止めマットなど敷物を敷設して対応している。しかし,この方法には
- 初期費用及びメンテナンスコストが高い。
- 既設の床を覆うように敷設するため,意匠・景観を損なう。
- 段差,めくれ,ずれが生じるため転倒事故の恐れがある。
3.2 スキッドレスシリーズの編成
滑りやすいタイル床や石材床は化学的に防滑処理する技術は既に実用化されているが,木床・金属床・化学系床・塗床・コンクリート床など化学反応が起きない床材には効果的な防滑技術は無かった。本技術は,これらの床材表面をコーティングすることにより意匠・景観を損なうことなく滑りにくい床材表面に変える画期的な工法である。表-2にスキッドレスシリーズの工法一覧を示す。また、図-1に床の状態や材質などに対応した工法の選択フローを示す。
3.3 新技術の特徴
新技術はコーティング剤(シリコーンレジン)の有する耐候性,耐摩耗性,密着性,防汚性などの優れた特徴を残し,写真-2に示すように被膜表面に微細な凹凸を形成させることで防滑性を有するコーティング被膜に変え,防滑処理を行う技術である。不特定多数の人々が利用する公共施設などでは,滑りやすい床での利用者の転倒事故が大きな問題 になっている。新技術は経済性に優れ,意匠・景観を損なわず,段差や違和感が無く,滑りやつまずきによる転倒事故を未然に防止できるため安全・安心な環境が確保される。
4.施工条件及び特に効果の高い適用範囲(スキッドレスコートの場合)
4.1 施工条件
- 外気温5℃以上で,降雨・降雪の影響を受けずコーティングする床素材表面が結露しないこと。
- 塗布から硬化(5℃以上で5時間,20℃以上で3時間)するまでの間,床材表面の乾燥状態を維持できること。
- 作業員が普通に立ち入って作業できる空間があること。
4.2 特に効果の高い適用範囲
- 湿潤状態で滑りやすくなっている床面。
- 床の表面素材が化学系(P タイル・長尺塩ビシートなど)のもの。
- 滑り防止を特に必要とする施設の出入り口(公共施設・福祉施設など)。
5.施工単価
スキッドレスシリーズの施工価格は各工法全て同一単価で、公示している施工単価を表-3に示す。
下記の場合は,別途積算となる。
- 施工する床面の汚れ(既設ワックスも含む)が甚だしく,洗浄しなければならない場合。
- 施工時において特別の養生が必要な場合や,複雑な形で施工しにくい場合。
- 施工場所が遠隔地や,施工が早朝・深夜になる場合。
6.施工方法
スキッドレスコートドライの場合の作業手順は下記のとおりである。また,その施工状況を写真- 3に示す。
- 作業に伴う周囲の汚損防止のため,適切な養生を行う。
- コーティング剤を塗布する床面を洗浄(既存ワックス剥離も含む)し,完全に乾燥させる。
- プライマーを均一に塗布する。
- プライマーの指触乾燥(1 時間以上)を確認後,コーティング剤を塗布する。
- 塗布後は,所定の硬化乾燥養生をする。
- 硬化被膜を目視確認し,不良個所があれば再塗布など適切に対処する。
- 養生を撤去する。
7.おわりに
スキッドレスシリーズによる防滑工法は,あらゆる床面の防滑処理が可能であり,安全で安心な環境の確保ができる。公共工事・施設への適用をはじめ,これからの高齢社会を踏まえると,一般の商業施設・福祉施設・病院・住宅環境など広範囲にその活用が望まれる。
防滑処理の必要性や効果の確認は,これまでは滑りやすさを人の感覚で評価する官能検査に基づいていたが,現在は写真-4に示すように独自に開発した測定機器により滑りやすさを数値化し,客観的な確認を行っている。数値化したデータの事例を表-4,測定イメージを図-2に示す。
近年の床材は種類も多く日々進化しているため、十分な防滑効果を得るためには床材に適したスキッドレスシリーズの選択が非常に重要となる。そのため,工法の決定にあたっては,現場において必ず試験施工を行い防滑効果を確認・検証する必要がある。